
崎山さん:
皆さん、こんにちは。HDXセルバンクの動画をご覧いただきありがとうございます。進行を務めます、崎山一葉です。
記念すべき第1回は、精子に関するお話です。本日は『男を維持する精子力』という著書もあり、臨床と研究分野の第一人者である、獨協医科大学埼玉医療センターの岡田弘先生にお話を伺います。よろしくお願いします。
岡田先生:
丁寧なご紹介をありがとうございます。獨協医科大学埼玉医療センターの岡田です。今日はよろしくお願いいたします。
崎山さん:
岡田先生は泌尿器科と生殖医療の専門医として、同センターのリプロダクションセンターを拠点に、全国のクリニックで男性不妊外来を担当されていますね。
早速ですが、「精子力」という言葉について解説いただけますか?一般的にはあまり聞き慣れない言葉だと思います。
岡田先生:
まず、なぜ「精子力」という言葉を使ったかについてお話しします。
ヒトは精子と卵子という二つの細胞が融合(受精)することで新しい命が誕生します。つまり、男性側の命の半分を精子、女性側の命の半分を卵子が担っています。
精子は人間の体の中で最も小さい細胞の一つでありながら、安全に動き回れるという大きな特徴を持っています。その役割はただ一つ、半分の遺伝情報を卵子に届けることです。
これまでの研究では、精子の「数」や「形」ばかりが注目されていました。しかし、もっと重要なのは次世代を作る「力(ちから)」を測ること、そして自分たちがどうすべきか思いを馳せる「力(りょく)」が必要だと考え、「精子力」と名付けました。
実はこの言葉、私が最初に使ったわけではなく、数年前に著書で使われた先生がいらっしゃり、私は二番目でした。当時は「婚活」という言葉が流行しており、その年の流行語大賞に関連して「精子力」も認知されるようになりました。今では社会的に定着し、多くの人に使っていただけるようになったと感じています。
崎山さん:
生きるものの始まりとして、ふさわしいキャッチーな言葉ですね。
事前に調べてきた中で、先生が「精子力クライシス」というキーワードを使われていたのが気になりました。「クライシス(危機)」という言葉からは、ただならぬ印象を受けます。
岡田先生:
おっしゃる通り、危機が迫っていることを強い言葉で表現しました。
きっかけはNHKスペシャルでの特集です。1900年代末から2000年代初頭にかけての大規模な調査で、過去100年間に世界中で精子の数や濃度、運動率が低下していることが明らかになりました。これが子供ができにくい大きな原因ではないかと話題になったのです。
当時、「環境ホルモン」が生殖機能に悪影響を与えるのではないかと懸念されていました。そこで私も、バイアスのない日本人を対象に調査を始めたところ、精子力が低下している実態が見えてきました。
この状況を捉えて、「精子力クライシス」という特集が組まれ、その結果は世界中に配信されました。
崎山さん:
つまり、このクライシスは私たちの身近な問題として捉えるべきなのですね。
不妊の原因として、これまでは卵子の問題が注目されがちでしたが、現状をどのように感じていますか?
岡田先生:
不妊の原因は、男女半々であると考えるべきです。統計的に見ても、精子と卵子、双方に問題が起きていると考えられます。
これまでは、女性側の検査(血液検査など)が容易だった一方、精子の質を見る検査が難しかったため、女性側に責任が偏りがちでした。女性の場合、加齢に伴い卵子の遺伝子異常や質の低下が起こることが知られています。
しかし現在では、精子側の要因も多角的に解明できるようになり、実は男性側の「精子力」の低下が不妊の原因として多いのではないかと考えられるようになっています。
崎山さん:
精子力が非常に重要だと分かりました。では、精子力を高める、あるいは落とさないために、日常で心がけるべきことはありますか?
岡田先生:
よく聞かれる質問ですね。この20年ほどの研究で分かってきた、注意すべきポイントを挙げます。
まず、薬で注意すべきなのが「育毛剤(AGA治療薬)」です。これらは男性ホルモンの作用を抑える働きがあるため、精子形成が悪くなることがあります。妊活中の方は控えた方が良いでしょう。
次に生活習慣ですが、最も悪いのは「タバコ」です。加熱式や電子タバコであっても、ニコチンが含まれているものは精子形成に悪影響を及ぼします。ニコチンによる酸化ストレスが、次世代に渡すDNAを傷つけてしまうのです。
また、「熱」の影響も大きいです。高熱(37度以上)が数日続くと、その後の精子の質や数が低下します。同様に、サウナや、膝の上でノートパソコンを使う習慣も、精巣を温めてしまうため良くありません。
自転車通勤の方も注意が必要です。サドルが会陰部(尿道や射精管がある部分)を圧迫し、炎症を起こすことで精子の質が低下することがあります。長距離を避けるか、サドルを工夫することをお勧めします。
崎山さん:
健康のために自転車に乗る方も多いと思いますが、注意が必要なんですね。
最後に、「禁欲」についてはいかがでしょうか?昔は「溜めたほうがいい」と言われていましたが。
岡田先生:
最近の考えでは、精子の質を保つためには「週に2回程度」射精する方が良いとされています。
精子は作られた後、通り道にプールされますが、長期間溜めたままにすると古い精子が増え、DNAが損傷した精子の割合が高くなってしまいます。長い禁欲は、かえって精子を壊す原因になるのです。
また、下着も密着するものより、放熱できる通気性の良いものがお勧めです。
これらは、お金もかからず痛みも伴わない方法ばかりです。「体に悪いことをやめる」だけで精子力は守れますので、ぜひ実践していただきたいですね。
崎山さん:
良かれと思ってやっていたことが逆効果だった、という気づきもありました。すぐに実践できることばかりですので、ぜひ参考にしていただければと思います。
岡田先生、本日はありがとうございました。