
精子の質に目を向ける
ART時代の新たな治療戦略・精子力改善プロジェクト (2019年秋号)
精巣冷却で精子の機能(質)が改善
ミツボシプロダクトプラニング株式会社
代表取締役 向井 徹
- 精巣の温度と造精機能
精巣の機能を保つ温度は35℃が理想とされています。精巣の温度は1℃〜1.5℃の上昇が続くと精液検査所見が悪くなるため、精巣の温度を高くしないことが精子力アップの基本と言われています。温度が高くなる原因としては肥満によるBMI値の上昇や服装、生活習慣などがあります。また、精索静脈瘤があると精巣の温度が2〜3度上昇することが多く、造精機能が低下して、OAT症候群(乏精子症、精子無力症、奇形精子症)を招くことが知られています。
これらの場合には、早めに高度精液精子検査を行う事をおすすめします。
- 陰嚢冷却による精子DNA断片化の変化
高度精液精子検査の結果、DFI値が高値であった男性患者は生活習慣を見直すとともに、抗酸化剤の服用や陰嚢の温度管理を一定期間継続することで数値を改善できる可能性があります。
つばきウィメンズクリニック(愛媛県)と獨協医科大学埼玉医療センターを受診した精索静脈瘤G2〜3の患者(片側、両側)10名が陰嚢(精巣)冷却シートを使用した結果、10人中7名で10週間後のDFI数値が有意に改善を認めたという興味深い報告があります。
【陰嚢冷却シート使用によるDFIの変化】
また、男性不妊患者が2,500万人以上とも言われている中国においては、各地域の中核医院で有効な治療法として医療用冷却シートの処方が増加しており、精巣の冷却・温度管理という概念が一般化しつつあります。
上海交通大学医学部の研究※ では
『精索静脈瘤がある男性不妊患者64名に陰嚢冷却シートを連続16週間使用後、65.6%の患者の精液の質が改善され、26.6%の患者が受精した。冷却シートは陰嚢温度を下げ、睾丸の生精環境の改善、過酸化反応がもたらす損害を避け、安全かつ有効的で、今後においては、推進できる治療方法の一つである』
という報告がされています。
精索静脈瘤の治療には手術が有効ですが、突発性造精機能障害ではORP値やDFI値の改善に決定的な治療法は確立されていません。やむを得ず精索静脈瘤手術を行えない場合や突発性造精機能障害の場合には、冷却シートによる精巣冷却は抗酸化療法などの内服加療に加えて新たな選択肢となり得ます。
DFI値を改善するためにできることは何でもやるという前向きな気持ちで先ずは3〜4ヶ月間チャレンジしてみると良いでしょう。
※ 2018年5月−8月 臨床試験:つばきウイメンズクリニック 協力:獨協医科大学埼玉医療センター
※ 「医療用冷却パッチが合併精索静脈瘤不妊患者の精液パラメータに対する影響について」Chinese Journal of Andrology Vol. 30 No. 6 2016
「精子の取り扱い方法の改善」に有効な採精容器
- 採精・輸送容器のイノベーション
射出精液の質を低下させる3大要因として
「酸化」「温度」「紫外線」 の影響があげられます。
新たに登場したトランスポーターSは、約20年ぶりのイノベーション製品として
① ユーザビリティの向上
② 密閉性と運搬性の向上
③ 精液エイジングリスクの大幅な軽減
を念頭に開発された採精・輸送容器です。
採精する本人の使い勝手が良く、密閉性と液体の安定性に優れており、保存・輸送に適しています。獨協医科大学埼玉医療センターで実施した臨床試験※ では従来の容器と比較して多くの有意差が確認されました。
【サーモグラフィーにおける温度変化の比較】
→ トランスポーターSは従来容器と比較して気温の影響を受けづらい。
【前進運動率の比較】
→ 6時間経過後もトランスポーターSは運動率や生存率が有意に変わらなかった。
【精液中酸化還元電位測定(ORP測定)の比較】
→ トランスポーターSでは6時間経過後も精液の酸化がほとんど進まなかった。
IVF、ICSIの成功率を高めるために多面的なアプローチが研究されていますが、
トランスポーターSは温度や酸化ストレスの影響を受けづらく、精子の質(機能)を重視する上で使用するメリットが大きい器具と言えます。
データ出典:獨協医科大学埼玉医療センター リプロダクションセンター