精子の質に目を向ける
ART時代の新たな治療戦略・精子力改善プロジェクト (2019年秋号)
ART治療成績向上のための泌尿器科的に治療可能な取り組み
横浜市立大学附属市民総合医療センター・生殖医療センター 部長
田園都市レディースクリニック
湯村 寧 先生
不妊症カップルの約半数に男性因子が関与しているにもかかわらず、無精子症の場合を除き、男性に対して適切な治療を行うことなしに高度生殖補助医療(ART)が実施されているケースが少なくありません。
その一方で、受精後、3日目以後の胚発生には精子のDNAの完全性が関与しており、精子DNAの断片化が生じると、胚の発生停止や着床障害、流産などのリスクが上昇すること、また、卵子に備わる精子DNAの断片化修復機能は、女性の加齢により低下することが知られています。
このことは高齢女性患者が中心のART時代でもある現在、男性の妊孕能の評価は精子の数や運動性だけでなく精子の質にも目を向け、精子DNA断片化の改善が、治療成績向上のキーポイントになることを物語っています。
ところが、従来の精液検査は精子の数や運動率を調べる検査であり、精子の質については十分に反映されません。
そこで、反復不成功のART患者や反復流産カップルの男性には、精液検査の結果に問題がなくても、精子DNA断片化率検査を実施し、精子DNA断片化率が高値の男性に対しては、精子の質の改善に取り組むべきであると考えています。
具体的には、禁煙の指導や肥満患者に対しては減量指導等の生活習慣の改善、禁欲期間を短くすること、抗酸化サプリメントの摂取などが、ART治療成績向上のための泌尿器科的に治療可能な取り組みと言えます。
今後は、このような取り組みのエビデンスを確固たるものとして、ART治療成績向上のため、泌尿器科医と婦人科医師と連携を図る必要があります。
プロフィール
【学歴】1993年 横浜市立大学医学部卒業
【職歴】1995-2008年 藤沢市民病院、大和市立病院、国立熱海病院、横須賀共済病院、茅ヶ崎市立病院、横浜市立市民病院泌尿器科など
2009年 横浜市立大学附属市民総合医療センター泌尿器・腎移植科助教
2011年 同講師
2018年 横浜市立大学附属市民総合医療センター 生殖医療センター部長 准教授