パートナーや次世代のためにも精子凍結という選択肢

吉村 泰典 医師

慶応義塾大学名誉教授
吉村やすのり生命の環境研究所代表理事

自分の健康が子供に遺伝!?今から始める子育て対策

日本では毎年約83万人の人口の自然減少が続いています。

合計特殊出生率というのは、女性が一生の間に産む子どもの数を示す指標です。この数値が「人口置換水準」を下回ると、人口は自然に減少していきます。この人口置換水準は2.07と言われていますが、2023年の出生率は1.20、出生数は72万7,000人と、過去最低の水準に達しました。さらに、毎年約83万人の人口の自然減少が続いています。
特に2019年の安倍内閣による「人づくり革命」や、2020年の菅内閣による不妊治療の保険適用政策が注目されました。この政策により、体外受精や生殖医療への助成金が拡充され、1年間で9,000人の出生増加が確認されています。
2022年からは不妊治療の保険適用が本格的に始まりましたが、それでも出生率の回復には限界があります。

プレコンセプションケアの役割

「プレコンセプションケア」は、心身の健康を保ちながら、将来の妊娠・出産に備えるケアを指します。自身だけでなく、パートナーや次世代の健康にも良い影響を与えるため、少子化対策の一環として注目されています。
妊娠や不妊治療は女性中心の課題とされてきましたが、近年では男性側のプレコンセプションケア(妊娠準備ケア)の重要性が認識され始めています。
不妊治療の実施を通じて、男性不妊症の割合が高いことが明らかになってきました。また、食生活や環境因子、ストレス、精神的要因などによる精子の質の低下も指摘されています。

ウェルビーイングの確立

精子凍結は、男性の健康と将来の妊娠・出産計画において重要な手段であり、心身の健康だけでなく社会的・経済的にも良好な状態(ウェルビーイング)の確立に貢献するとされています。
自分自身やパートナー、さらには次世代の健康と幸福を考える機会を提供します。

将来の⾃分に対する投資としての精⼦凍結保存のすすめ

岡⽥ 弘 医師

獨協医科⼤学名誉教授
国際リプロダクションセンター チーフディレクター

サウナが危険!?意外とやってしまっている婚活NG行動

精子が老化する!?これからは精子凍結という選択を

昨年(2023年)に公表された、我が国の平均初婚年齢の推移の確定値によれば、1995年(30年前)では男性28.5歳 ⼥性26.3歳であったものが、2022年には男性31.1歳 ⼥性29.7歳と過去最⾼値を更新しています(参考資料 1.)。このため、男⼥ともに⼦どもを持つためには、年齢を意識せざるを得ない事態に陥っています。

加齢変化(agingによる衰え)は、⾝体臓器のすべてに起こるものであり、精巣も例外ではありません。
根拠のないままに広く受け⼊れられてきた、「⽣まれたときにすでに出来上がっていて新たに造られない卵⼦と違い、精⼦は毎⽇新たに造りだされるものであるから、加齢変化は起こりにくい」という誤った常識がありましたが、最新の研究データでは、「精液量の減少・精⼦濃度や精⼦運動率の低下といった精液検査結果に衰えが現れる40歳よりも、ずっと早い35歳を分岐点として、精⼦の受精能⼒(精⼦⼒)が低下する」ことが明らかになってきました。

さらに、各種悪性腫瘍(がん)に罹患する年齢の低年齢化傾向が強まり、従来は⾼齢者のがんと考えられていた、前⽴腺がんや直腸がんでは40歳の患者さんも珍しくなくなってきました。⽇本⼈は⼀⽣のうちに悪性腫瘍にかかる確率が50%以上であることを加味すると、これから結婚して家族を形成して⾃分たちの⼦孫を残そうとする世代の⼈の多くが、がん治療を経験することになります。
お薬による治療(抗がん化学療法)や放射線治療は、そのすべてが精⼦形成を傷害するばかりでなく精⼦の質を悪化させています。(具体的には精⼦DNAの断⽚化が⾼率に起こります)これらの事態に対して、何も対策を講じないでいることは後の⼤きな後悔につながると考えられます。
⼥性が未受精卵を凍結保存するためには、侵襲を伴う処置である排卵誘発のためのホルモン療法を⾏い、⿇酔をかけて卵胞を穿刺して卵を獲得する必要があります。
しかし、精⼦凍結保存のための精液採取は何ら侵襲を伴うことはありません。
最近はやりの⾔葉にプレコンセプションケア(pre-conception care: 通称プレコン)があります。もともとは、新しい⽣命をさずかる受胎(conception)に有益な体のケアを、妊娠可能な年齢のすべての⼥性が、⾃分を管理して健康な⽣活習慣を⾝につけようと始まった活動を指しています。現在では、⼥性だけではなく、男性においても精⼦⼒や性交⼒を維持するために必要な、健康管理や⽣活習慣の⾒直しを計ることの重要性が明らかにされてきています。⾃⾝の精⼦を凍結保存することも、究極のプレコンセプションケアといえるでしょう。

今回の『精⼦凍結みらいバンク®』、提供精⼦を⽤いた⽣殖医療(提供精⼦による⼈⼯授精AID<artificial insemination with donor sperm>や提供精⼦による体外受精IVF-D<invitro fertilization with donor sperm>とは別のものであり、あくまでご⾃⾝の精⼦をご⾃⾝が将来の使⽤に備えて凍結保存するものであることを、いま⼀度強調したいと思います。
⼈⽣100年時代の新しい⼈⽣設計に向けて、将来的に⾃分の遺伝⼦のつながった⼦供を得ようと思うならば、積極的にご⾃⾝の精⼦をご⾃⾝のために凍結保存しておくことをおすすめいたします。

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